『黒い迷宮: ルーシー・ブラックマン事件15年目の真実』
(リチャード・ロイド・パリー)
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日本のメディアと警察組織と犯罪・事件の課題。
イギリスのメディアと家族生活の課題。
個人的におもしろいのは、
イギリス人ジャーナリストの目を通して描かれる
日本の社会の風俗と解釈である。
日本の裁判制度や警察機構に対し、
想像力の欠如した犯罪と向き合う組織と喝破。
「お巡りさん」と「ビーポ君」にイメージされる
想像力の欠如した犯罪と向き合う組織と喝破。
「お巡りさん」と「ビーポ君」にイメージされる
親しみやすい権力組織としての警察機構。
外国人の体験する”ガリバー体験”と
日本の遠慮と礼儀正しさという文化。
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とりわけ、在日朝鮮人社会と
水商売の実態と日本の性文化の記述は
興味深く読ませてもらった。
著者が参考にしている文化人類学者アン・アリスンの博士論文
「夜の仕事-東京のホステスクラブにおける性・快楽・組織内の男らしさ」
は是非読んでみたいと思った。
世界に類をみたい、多様な性分化を産み出す
日本の社会のありかたや、
クラブオーナー 宮沢櫂の説明する外国人女性への理解と蔑視発言に
日本人一般の海外女性への態度を感じ取る記述は、
外国人ホステスに言い寄ってくる男たちの
メール文面の気持ちの悪さとあいまって、
独特の日本人論を表明している。
また、在日朝鮮人という課題については、
”タブー視することによる(アンタッチャブル化による)
差別問題の課題”というテーマに迫っている。
一方で、娘を探し出す親の側では、
ブレア首相の関わりから、
娘の居所を知っていると続々と登場する詐欺師たちの登場で、
文化を超えた現代社会の不気味さを醸し出している。
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個人的に目が離せないのは、
こうした国境と文化をまたいだ不可思議な状況のなかで、
ホステスたちの暮らす住居の
ユニットバスなどがさりげなく挿話ですらなく、
状況の形容のように登場してくることだ。
ユニットバスの排水溝には
濡れた髪の毛と、皮膚のカスがからみついている。
著者は、こうした描写を、つまり細部を描くことを怠り無く
文章に挿入してくる。
その姿勢に傾倒してしまう。
本書は現代社会論であり、
一種の民族誌であり、
一級のフィールドワークの書である。
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なお、著者自身は、この書物の意図について
BLOGOLOSでのインタビューに答えて
以下のように語っている。
『(本書の目的は)
「こいつは怪物だ」「こいつは悪人だ」と
レッテル貼りをすることではないからです。
そういってしまうと、そこでその会話、
ストーリーは終わってしまう。
そうでなく、「どうしてそういう人物が生まれたのか」
と考えていく作業を、
私はこの本を通じて進めていったと思っていますし、
「何がその人をそうさせたのか」ということに
重点を置いて執筆しています。』
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