2016年11月6日日曜日

(読後)英ジャーナリズム発、日本論on性犯罪『黒い迷宮』

『黒い迷宮: ルーシー・ブラックマン事件15年目の真実』
(リチャード・ロイド・パリー)

日本のメディアと警察組織と犯罪・事件の課題。
 イギリスのメディアと家族生活の課題。 

それらがコンパクトにまとめられている

個人的におもしろいのは、
イギリス人ジャーナリストの目を通して描かれる
日本の社会の風俗と解釈である。

日本の裁判制度や警察機構に対し、
想像力の欠如した犯罪と向き合う組織と喝破。

「お巡りさん」と「ビーポ君」にイメージされる
親しみやすい権力組織としての警察機構。
 
外国人の体験する”ガリバー体験”と
日本の遠慮と礼儀正しさという文化。

とりわけ、在日朝鮮人社会と
水商売の実態と日本の性文化の記述は
興味深く読ませてもらった。

著者が参考にしている文化人類学者アン・アリスンの博士論文
「夜の仕事-東京のホステスクラブにおける性・快楽・組織内の男らしさ」
は是非読んでみたいと思った。

世界に類をみたい、多様な性分化を産み出す
日本の社会のありかたや、
クラブオーナー 宮沢櫂の説明する外国人女性への理解と蔑視発言に
日本人一般の海外女性への態度を感じ取る記述は、
外国人ホステスに言い寄ってくる男たちの
メール文面の気持ちの悪さとあいまって、
独特の日本人論を表明している。

また、在日朝鮮人という課題については、
”タブー視することによる(アンタッチャブル化による)
差別問題の課題”というテーマに迫っている。
  
一方で、娘を探し出す親の側では、
ブレア首相の関わりから、
娘の居所を知っていると続々と登場する詐欺師たちの登場で、
文化を超えた現代社会の不気味さを醸し出している。

個人的に目が離せないのは、
こうした国境と文化をまたいだ不可思議な状況のなかで、
ホステスたちの暮らす住居の
ユニットバスなどがさりげなく挿話ですらなく、
状況の形容のように登場してくることだ。
ユニットバスの排水溝には
濡れた髪の毛と、皮膚のカスがからみついている。
著者は、こうした描写を、つまり細部を描くことを怠り無く
文章に挿入してくる。
その姿勢に傾倒してしまう。
 
本書は現代社会論であり、
一種の民族誌であり、
一級のフィールドワークの書である。

なお、著者自身は、この書物の意図について
BLOGOLOSでのインタビューに答えて
以下のように語っている。

『(本書の目的は)
 「こいつは怪物だ」「こいつは悪人だ」と
レッテル貼りをすることではないからです。
そういってしまうと、そこでその会話、
ストーリーは終わってしまう。
そうでなく、「どうしてそういう人物が生まれたのか」
と考えていく作業を、
私はこの本を通じて進めていったと思っていますし、
「何がその人をそうさせたのか」ということに
重点を置いて執筆しています。』


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