映画:「鑑定士と顔のない依頼人」(THE BEST OFFER)
上映館が少ない。
上映回数も少ない。
そのせいか、ホール内の席は8割は埋まっていたと思う。
正月映画は他に派手な映画をたくさんやっているのだが。
「ニュー・シネマ・パラダイス」や「マレーナ」を撮った監督だ。
人気が合って当たり前と思う。
スクリーンホール内は、若者よりも映画好きなおじさまおばさまでいっぱいだった。
そういう自分も平均年齢上げているのだけれど。
ミステリーとしてこの映画はよくあるパターンの物語。
ああ、こういう話なのだと冒頭でのさまざまな状況紹介と、出会いのはじまりで察しがついてしまう。
でも、クイズ問題を解きに来たわけではない。
物語をどんなアプローチで、どんな仕掛けで、どんなプロセスで、どのような感情の起伏で、どんな映像で魅せるか…人間をどのように描けているかだけど...いろいろあるのだなー。
この映画の映像は美しい。
屋敷を・館内を・レストランを歩き回る足音が美しい。
個人的に、歴史的をかいくぐってきた美しい調度品、その豪華な印象と寂れた雰囲気、オートマタ、絵画の数々、そんなものを見ているだけで心地よい。
前半ずっと、電話のやりとりが続く。
最初、ダミ声にしか思えなかったヴァ—ジルの低音がだんだん渋く思えてくる。
あまりなじめなかったクレアの声が、電話を通じてずっと聞き続けているうちに、だんだんセクシーな声に感じられてくる。
映画を通じて、ヴァ—ジルの耳に感情移入してきたのだろうか。
そして、物語の最後に…ひとつの真実の欠片でも探し続ける男、それがあったと期待しないではいられない男の映像に、人々の喧噪と小刻みに時を刻む小さな音たちが重なる。
映像も美麗であったが、音のシネマとして頭に焼き付けられた。