2013年2月7日木曜日

卒論審査のこと 続き


作品紹介 後半


直島は観光地として存続できるのか:
フィールドワークによる情報収集と課題整理に特徴。
アート、まちづくり、事例としての直島。この研究テーマに対する本研究の先行研究に比べた場合の個性の強調と、その強調点から展開する議論の見通しがほしい。

原風景はつくられるものであるか:
問題追求型の論理思考が特徴。
論旨に沿った上での感想は、個人の原風景・民族の原風景・人類の原風景という概念セットと、イメージとしての風景・経験としての風景という対概念を利用しながら展開される、原風景の構造・発生論のさらに精緻な整理を求めるということ。原風景とは何か、という根源的な問い踏み込むためには必要な考察である。ただ、具体例の分析を通じて、原風景はいかに社会のなかでつくられていくか、や、どのように使われているか、という側面の議論…原風景の持つ社会的意味を検討する、という方向も見たかった。先に紹介した原風景概念のセットを駆使しての社会分析の可能性があったと思う。

ボート競技の社会的反響:
体験を土台とした問題追及が特徴。
特にメディアを通じて描かれるボート競技の姿を、事例をあげて詳細に論じることで、ボート競技の普及の課題について、より充実した展開ができたと思う。

混合診療からみた日本の医療制度の現状と課題:
執筆プロセスでの、問題理解の深まりが印象的。
混合診療に踏み切れない課題とその理由がいまひとつすっきりつながっていないのではないか…という疑問の他、海外モデルを日本に導入を図るとしてその課題は何か、混合診療問題から日本社会のありようの検討への言及が欲しい。

うつ病増加を食い止めるために:
フィールドワークからの学びと考察の展開が特徴。
メディアの取り上げ方や、日本社会のうつ病を取り囲む環境について、例えば、一事例の詳細などを通じて明らかに記述できれば、より問題点を強調すると同時に、最後の執筆者の見解もさらに明快に議論を展開できたと思う。

日本の食生活とスローフード活動:
フィールドワークのなかからの出会いと問題の関わりへの展開が特徴。
なぜ今、スローフードなのか、それが実現可能な社会は想像・創造できるのか、このあたりの議論をめぐって、執筆者の忌憚ない見解まで展開できればよりよかった。

スポーツを通じてのまちづくり:
自己参加型の地域活動の考察が特徴。
スポーツの通じてのまちづくりを、いくつかのパターンに整理し、執筆者の着眼点を定めて、事例をさらに詳細に解説することで、さらにスポーツによるまちづくりの種々の課題が浮き彫りにされたと思う。

子どもの遊びの変化にみるコミュニケーションの課題:
取材対象地域での出会い探しの醍醐味が特徴。
対象地の定点的観察・インタビューの更なる詳細に入り込み、生活歴として振り返ることで、こどものコミュニケーションにとっての遊びがどのような意味を持つものであったのか、一般的議論だけでなく生活者の実感から課題を考察するところまで到達したい。

ハリウッド映画におけるhero象の変遷:
ハリウッド映画に関する豊富な知識・資料が特徴。
ハリウッド映画におけるナショナリズムの変遷について、ヒーロー像の移り変わりに着目しながら、論じている。映画に描かれた内容分析から、アメリカ社会のナショナリズム論を構成しようとしている。表題とは、方向性が異なってきているが、それは立論のなかでの展開過程として前向きにとらえる時間があれば、論旨が明確にできたと思う。

ペットが人に与える効果:
精力的なフィールドワークが特徴。
ペットと人間との関係から、ペットブーム・ドッグセラピーのふたつの課題について考察されたが、最終的にドッグセラピーに注力することにより、犬と人間の生活の課題に肉薄する方が議論に深みや迫力が生まれたのではないかと確認。


以上、おつかれさまでした。

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